社説:円高株安 古びた発想から卒業を

社説:円高株安 古びた発想から卒業を
 「大変だ、何とかしろ」コールがまた強まってきた。例によって「大変」の理由は円高だ。24日の東京市場で再び1ドル=84円台となり、日経平均株価が、9000円を下回った。前日、菅直人首相と日銀の白川方明総裁が電話協議をしたものの、具体的な「対策」を打ち出さなかったために、一段と円高・株安が進んだのだという。

 しかし、円高→輸出企業が大変→株安→緊急対策を、というワンパターンの発想からはそろそろ卒業すべきではないか。パニック的に目先の対策を急いでも、日本経済が抱える本質的な課題の解決にはつながらない。これまで何度となくとられてきた「円高・株安対策」が何をもたらしたかを考えれば明らかだ。後に残ったのは借金の山である。

 少し冷静になって眺めてみよう。

 対ドルの円相場が1ドル=79円台に突入した15年前に比べ、日本企業も世界経済も様変わりしている。貿易に占める通貨の比重や物価の影響を勘案した総合的な為替レートをみると、今の円相場は過去20年間の平均よりまだ低い(円安)という。95年の1ドル=79円に匹敵する円高は、今のレートなら1ドル=約58円といった試算もある。

 一方、製造業は世界各地で現地生産を増やし、為替相場の変動に備え、一定の手だてもとっている。

 さらに一部の企業は、この間、着々と海外企業の買収を進めてきた。円の価値が上がることは、外国の企業や資産が割安価格で買えることを意味する。トムソン・ロイター社によると、日本企業による外国企業の買収額は今年すでに昨年1年間の総額を超えた。円高は、一層拍車をかけそうだ。

 注目すべきは、大企業だけでなく、中小の機械メーカーなどが成長市場と見たアジアで現地企業の買収に活発になっていることだろう。すべての企業にとって円安=善ではない。円高を武器に変えて、攻めの経営をしようとしている企業もある。

 日本語では常に「円高」とマイナスイメージで語られるが、英語だと「ストロング・エン」(強い円)だ。通貨価値の上昇は「ゲイン」(利得)とも言う。悲鳴を上げるだけでなく、せっかくの強さを利益につなげる発想を広められないものか。

 では政府は何もしないでよいかといえば、全く逆だ。与党内、政党間の主導権争いに終始し、規制緩和や社会保障制度改革など待ったなしの課題が置き去りになっていることこそ危機である。日銀に追加金融緩和を迫ったり、為替介入や補助金支給といったお決まりの対症療法に逃げ込むことが仕事だと勘違いしてもらっては困る


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毎日新聞 2010年8月25日 2時30分
by momotaro-sakura | 2010-08-25 10:09