【循環器】

【循環器】27.4

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(32)血中BNP検査は心不全の治療に不可欠な検査。
まとめ:血液中のBNP濃度は、心臓の弱り具合(心不全の重症度)を評価するのに便利である。現在では心不全の治療になくてはならない検査となっている。


【血中BNP濃度は心不全の重症度を反映】
 BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド:brain natriuretic peptide)は1988年に、日本で豚の脳から単離同定された心筋から分泌されるホルモンである。ヒトでは主に心室、一部は心房から分泌される。心臓の負荷が増えたり、心筋の肥大が起こると増加する。BNPは利尿作用、血管拡張作用、レニン・アルドステロン分泌抑制、交感神経抑制、心肥大抑制などの作用があり、心筋を保護するように働くホルモンである。
 しかし、BNPは心機能の低下に敏感に反応して上昇し、心不全の重症化とともに急上昇するので、いまのところ臨床の場では治療薬としてではなく、心不全の診断と重症度評価に用いられている。急激な変動がないために、検査の再現性、定量性が安定している。
 BNPが心不全治療の場で繁用されるようになったのは、ごく最近のことである。1996年から入院患者での検査が保険適応となり、1998年には外来患者でも適応となった。現在は、「心不全の病態把握」のための月1回の検査が保険適応となっている。心疾患のスクリーニングとして有用と考えられるが、その目的での保健適応は現在はない。つまり、「心不全の疑い」では、保険診療では検査できない。
  検査費用は1400円(保険点数140点)である。検査結果がでるのに通常3-7日かかる。血漿BNPの基準値は18.4pg/ml以下であるが、心臓病以外でも軽度の上昇はおこりうるので注意する。しかし、「心疾患なし」では通常100pg/ml以下である。100pg/ml以上なら心臓の負荷がかかっている状態と考えて、何らかの心機能障害が生じていると考えてよい。しかし、BNPは心機能低下の重症度を調べる検査であって、単独で心臓病の有無をスクリーニングする検査としては不十分である。狭心症や心筋梗塞、頻拍性不整脈の約半分がBNP40以下であったという報告がある。
 また、BNPの変動は遅いので、急性心筋梗塞では発症6時間以内ではBNPはまだ上昇していないことが多い。
心房細動では洞調律の時に比べて、30-120ほど高くでるとある。
【心不全がある時、BNP値が200以下を治療目標とする】
 慢性心不全の外来管理において、●症状(労作時の息切れ、安静時の呼吸困難、主に足の浮腫)、●身体所見(肺ラ音、浮腫、肝腫大)、●体重、●胸部レントゲン(心拡大、肺うっ血、胸水)とともに、BNP値が重要なチェック項目となっている。BNP値は胸部レントゲンや心エコー検査、症状、身体所見よりも心不全の軽快や増悪に先行して変動することが多いので、とても有用である。また、BNP400以上は心臓突然死が多いとされる。この場合できれば、何らかの治療追加が必要であろう。


【心不全とほかの疾患との鑑別に有用】
 心不全と気管支喘息などの肺疾患を合併した患者は時々みられる。COPDや在宅酸素療法を行うような呼吸器疾患でも心房細動や何らかの心機能低下の合併がないかぎり、BNPはあまり上昇しない。低酸素血症を呈する重症呼吸困難でもBNPは100ぐらいのことが多い。
  一方、心不全で息切れなどの自覚症状がでるのは、BNP200以上がほとんどで、通常300以上である。救急外来の患者でBNP100以上を心臓病の疑いありとすると感度90%、特異度76%、正診率83%と呼吸困難患者を心不全とほかの疾患との鑑別に大変有用である。しかし、狭心症や心筋梗塞などでは、多くの場合心不全の合併がないので、BNP値は正常か軽度上昇のことが多い。外来患者の2年間の心臓死・心疾患による入院をみると、100以下は1%、100以上は19%、特に500以上は44%と極めて高率であった。疾患別にみると、虚血性心疾患ではよほどの高値でないかぎり、BNPで予後を予測するのは困難である。 BNP値と日常診療上の評価
    心疾患の有無 心不全の重症度 専門医による診察・治療
18.4pg/dl未満 正常域 どちらとも言えない 慢性の心不全はない 場合によっては必要
40pg/dl以上~100pg/dl未満 要観察 どちらとも言えない 慢性の心不全による症状はないことが多い 場合によっては必要
100pg/dl以上~200pg/dl未満 要精査・要治療 心疾患あり 多くは無症状の心不全 一度はあった方がよい
200pg/dl以上~500pg/dl未満 専門医による治療必要 心疾患あり 心不全の可能性あり 専門医による治療が必要
500pg/dl以上 厳重な治療が必要 心疾患あり 重症心不全 入院も含めて厳重な治療が必要
BNP40pg/dl以上の割合:土田桂蔵 症例数 割合 平均値
うっ血性心不全の既往のある人 62 97% 222pg/ml
肥大型心筋症 31 68% 155pg/ml
拡張型心筋症 7 86% 259pg/ml
弁膜症 96 73% 132pg/ml
慢性心房細動 91 86% 148pg/ml
ペースメーカー手術例 26 81% 154pg/ml
心房中隔欠損症 6 100% 173pg/ml
収縮性心膜炎 3 100% 112pg/ml
陳旧性心筋梗塞 55 39% 88pg/ml
冠攣縮性狭心症 61 16% 21pg/ml
発作性上室性頻拍 64 35% 42pg/ml
特発性心室性頻拍 8 37% 35pg/ml
心疾患なし 311 15% 22pg/ml
   
BNP値と予後の関係
BNP値 2年間の心事故発生率
40pg/dl未満 0-1%
40pg/dl以上~100pg/dl未満 3%
100pg/dl以上~200pg/dl未満 15%
200pg/dl以上~500pg/dl未満 20%
500pg/dl以上 44%
ただし、虚血性心疾患による心事故・死亡をBNP値から予測することは困難です。
心疾患スクリーニングモデルの違いによる費用と検出能
1998.6月-2000.8月までに岩手県予防医学協会で人間ドックを受診した1098例の調査結果


ル 一次検査
(費用) 異常者数 二次検査 検査総費用 一人の心疾患を検出するための費用 感度 特異度 陽性
的中率 陰性
的中率
A 心電図
異常なら2次検査 301 心エコー
301万 466万円 10.6万円 93.6% 75.5% 14.6% 99.6%
B 心電図+BNP
一方が異常なら二次検査 361 心エコー
361万 685万円 14.9万円 97.9% 70.0% 12.7% 99.9%
C 心電図+BNP
どちらも異常なら二次検査 64 心エコー
64万 466万円 10.6万円 78.7% 97.4% 57.8% 99.0%
心電図1500円、BNP1450円、心エコー10000円で計算
感度=疾患ありの群が陽性になる比率。特異度=疾患なしの群が陰性になる確率。陽性的中率=検査陽性群で、疾患ありとなる比率。陰性的中率=検査で陰性の群で、疾患なしとなる比率。



主な参考資料:
1) 日経メディカル2004.6 p75-78 土田 桂蔵(土田内科循環器科クリニック)
2)心疾患スクリーニングにBNP検査を導入する意義とその費用対効果 日本医事新報2004.5.8 P25-29 池田俊也(慶応義塾大学医学部)、中村元行(岩手医科大学内科学第二)、米澤慎悦、腰山 誠(岩手予防医学協会)
3)血中BNP測定の有用性 - 心臓の「元気度」がBNP血液検査で的確にわかる - 月刊ミクス1999.1月号p84-87


2004.09.27記 2004.09.27校正

by momotaro-sakura | 2011-04-09 09:46 | 健康管理/先端医療