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花王・消費者調査にエスノグラフィー手法を導入

花王
消費者調査にエスノグラフィー手法を導入 「極端な消費者」に密着し普遍的な結論を得る2009/02/12
上木 貴博=日経情報ストラテジー
記事一覧へ >>  花王の生活者研究センターは、「エスノグラフィー」と呼ばれる手法を用いて消費者の理解を深める活動に取り組んでいる。まず2007年秋から2008年3月まで半年間かけて観察やインタビューなどを実施。同年夏から事業部門や経営陣へ報告を行って調査結果の共有を進めてきた。調査目的は「アンチエイジング(抗加齢)に関する消費者の考え方や行動理由を理解すること」。マーケティングや商品開発などにはこれから生かされる見込みだ。

 エスノグラフィーとは、社会学や文化人類学における、インタビューや観察によるフィールドワークと調査記録をまとめた文書のこと。あえて事前に仮説を立てずに、定性調査を重ねて豊富な情報から仮説を見つけ出すのが特徴。従来型の消費者調査が仮説検証型とすれば、エスノグラフィーは仮説発見型といえる。データベースやアンケート、グループインタビューなどに比べて、より深く消費者の本音やこだわりに迫ることができるという。(関連記事)

 同センター ビューティケア研究室の井上紀子リサーチリーダー主任研究員は「新たな視点を見つけるのが狙い。特定の商品を開発するという目的があったわけではない」と語る。「人々はエイジング(加齢)をどのようにとらえているのか」「なぜアンチエイジングに熱心に取り組むのか」などを調べた。井上主任研究員らはまず美容雑誌の編集者や栄養士、医師らアンチエイジングに詳しい有識者らに会い、現状の把握に務めた。

 調査対象の選び方や定性情報の分析方法にはエスノグラフィーと一口に言っても色々ある。博報堂など2社と共同で取り組んだ今回の調査には、2つの大きな工夫がある。第1に、「エクストリームユーザー」に重点を置いたこと。第2に、収集した情報を解釈する会議の運営だ。

 エクストリームとは極端を意味する。大多数の考えを代弁しそうな中間的な性格や嗜好(しこう)の人ではなく、調査テーマに関して強い思い入れや嫌悪を持っている人たちを選んだ。今回の調査におけるエクストリームユーザーは5人。「若くして糖尿病にかかり食事制限を強いられている男性会社員」「あるときから白髪染めを止めアンチエイジングに消極的になった40代の女性」「20歳ながら老母役を得意とする女優」などだ。

 調査時はカメラだけではなく、ビデオで撮影もする。アンケートや事前に準備した定型の質問をぶつけるのでなく、偶発的なやり取りを大切にしながら「五感を使って事実をつかんだ」(井上主任研究員)。聞き取りの場所はフィールドワークらしく現場にこだわった。糖尿病の男性は勤務先の社員食堂。カロリーを気にしながら好物を食べる工夫をしていることに気づけた。40代の女性のインタビューは自宅で行った。当然、普段使う化粧品なども分かるし、インタビュールームに来てもらうよりリラックスして話を聞ける。

 集めた定性情報を分析する社内のグループディスカッションにも工夫を取り入れた。客観的な事実である「事実・事象」(ファクト)、そこから気づきを得る「発見」(ファインディングス)、発見を体系化する「フレームワーク化」のプロセスを繰り返した。「ワイワイガヤガヤと話し合うプロセスがあると文殊の知恵を生み出せる」と井上主任研究員は話す。

 こうして「エイジングとはアイデンティティの変化に対する機制(リアクション)である」との結論を得られた。すなわち、「病気や環境の変化といった何らかのきっかけから大切にしていた価値観が崩れた際に、改めて自身のアイデンティティーを更新する過程である」という。また、5人に「何もしなければ、世界は狭くなっていく」という共通した心理があることも分かった。

 エクストリームな消費者から得られた仮説が果たして一般の消費者にも当てはまるかどうか、検証も行った。生活者研究センターが選んだモニター9人に対して家庭まで訪ねてインタビューを実施し、当てはまることを確認できたという。

by momotaro-sakura | 2011-04-17 13:47