「スマートハウス」の命運握る電機業界、今こそ結束を

日経ニュース
「スマートハウス」の命運握る電機業界、今こそ結束を
公開日時 2011/8/29 7:00

 家庭のエネルギー消費量を格段に減らす手段として期待されている次世代住宅「スマートハウス」。その実用化が、足止めを食っている。


 東日本大震災の発生以降、トヨタホームやシャープなど国内各社は相次いで、スマートハウスの実証実験に取り組むことを発表した。電力供給に対する不安感から、住宅内のエネルギーを自給自足で賄いたいとのニーズが高まり、太陽光発電などによる「創エネ」、蓄電池による「蓄エネ」、家電の消費電力を制御する「省エネ」を連携させることで効果的にエネルギーを活用するスマートハウスへの期待が一気に膨らんだ。


 実用化に向けた動きは加速しているように見える。ところが、肝心の創エネ、蓄エネ、省エネの連携が、遅々として進まない。テクノアソシエーツが独自に調査した結果によると、その原因は、家電メーカーや電池メーカーの間で機器制御の通信規格が統一されていないことにある。


■すべて連携しないと意味がない


 繰り返しになるが、スマートハウスがその機能を発揮するには創エネ、蓄エネ、省エネのすべての連携が欠かせない。こうした連携を支える中核技術が、太陽光や蓄電池、家電などの構成要素を統合管理する「HEMS(home energy management system)」である(図1)。

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図1 「スマートハウス」の構成要素例 (出典:「HEMSアライアンス」の2011年7月12日付の発表資料)


 HEMSの心臓部となるコントローラは、太陽電池の発電状況や家電の電力消費状況に応じて、エネルギーを最も有効に活用するべく時間ごとにきめ細かく制御する。例えば、雨が降り始めて太陽電池の発電量が減った場合に家電の電力使用量を抑えたり、天候の変化を予測して前もって蓄電池に電力をためておいたりといった制御を自動で行える。


 逆にそれぞれが連携しないと、単に省エネ家電で電力使用量を10%削減するとか、電力料金が安い夜間に蓄電して昼に使うといった微々たる経済効果しか期待できなくなってしまう。


 現状では、こうした住宅の設備や家電を一括して制御することは難しい。機器を接続する際の通信プロトコルやインターフェースの情報がメーカーごとに異なるためである。このため、実証実験の多くは設備や家電を同じメーカーにそろえるか、その都度、個別にコストと時間をかけて開発している。

 しかし、実証実験から事業化フェーズに移る段階になったらそんなことはしていられない。通信方式がバラバラだと、本来のHEMSの付加価値ではないところで開発コストや時間がかかってしまい、現実的ではないからだ。スマートハウスを次の事業の柱として掲げたい住宅メーカーも「技術的には問題ない。規格を統一してもらえれば開発が進むのに」(国内大手住宅メーカーの開発担当)と、いらだちを隠さない。


■日本発の国際標準規格がある


 実は、スマートハウスに適用できる標準規格は、既に存在している。パナソニックや東芝、日立製作所など50社(2011年2月時点)が参加して開発した「エコーネット(ECHONET)」である。エコーネットを策定する「エコーネットコンソーシアム」の発足は1997年12月と10年以上も前である。2003年度には通信プロトコルやインターフェース関連を含む全規格が完成、2009年度には国際標準規格として認定された。


 エコーネット規格に準拠した家電も出されている。2002年に東芝、2003年にパナソニック(当時は松下電器産業)や日立などが発売し、インターネットにつながる「ネット家電」と称されて当時は話題を呼んだが、そのときは一定の省エネ効果ぐらいしかメリットを打ち出せなかった。消費者にとっては、価格の高いネット家電をわざわざ買う動機付けに乏しいことから、結果としてあまり売れなかったという。その後、各社は次々に撤退し、現在では東芝のエアコンや照明などから構成される「フェミニティ」シリーズや三菱電機のエアコンなど、エコーネットの採用はごく一部に限られる。


■日本の技術力復権の象徴に


 その後、日本の電機業界では住宅内の通信規格を統一する動きが見られない。2010年4月には、官民組織の日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が事務局を務める「スマートハウス情報活用基盤整備フォーラム(eSHIPS)」が発足したが、そこでは「インターフェースのマルチベンダ化」というテーマは挙がってはいるものの、「情報交換の場にすぎない」(複数の関係者)という状況である。


 2011年7月には電機メーカーなど10社が、HEMS普及の環境整備を共同で推進する「HEMSアライアンス」の立ち上げを発表したが、その目的は規格の統一化ではなく、「ネットワークにつながる機器のアプリケーションを安全に動かすための基準作り」(関係者)だと言う。電機メーカーを個別に見ても、自社製品だけが互いにつながるようにして顧客を囲い込もうとする、統一化とはむしろ逆の戦略を前面に押し出すところが目立ってきた。


 スマートハウスは、「エネルギーに対する安心感を得たい」という消費者のニーズを的確にとらえ、震災からの復興を機に世界の中における日本の技術力復権を果たす象徴となる可能性がある。幸い、この分野では、技術的に見れば世界の中で日本がまだ先行している。10年前に起こそうとした“ネットと家電の融合”が、今になって花開こうとしているのだ。


 ここで日本の電機業界は意を決して結束し、通信規格を統一しなければならない。できなければ、スマートハウスの巨大市場そのものが立ち上がらないか、連携のうまい海外メーカーにどんどん奪われてしまうだろう。


(テクノアソシエーツ 朝倉博史)
by momotaro-sakura | 2011-08-29 11:15