天声人語

朝日新聞天声人語より
2012年9月5日(水)付

. むかし、伊勢神宮は諸国の信者に、厄除(やくよ)けのお札などを入れた小箱を配ったそうだ。これを「お祓(はら)い箱」といい、毎年古いものが捨てられ、新しいものに取り換えられた。転じて「お払い箱」の言葉が生まれたと、手元の辞典にある▼自民党トップの谷垣総裁の再選が危うくなり、「お払い箱」という報道がもっぱらだ。総選挙を控えて、もっと人受けのいい「顔」にすげ替えたいらしい。野(や)に3年の自民党を手堅く率いてきたご本人の胸中は、穏やかではあるまい▼急浮上の石原幹事長は、父親の慎太郎氏、叔父の故・裕次郎氏に連なるブランド力で売る。安倍元首相は大阪維新の会との近さで存在感を増す。国会は8日まで開会中だが開店休業。懸案そっちのけで、党の関心はすっかり総裁選に移っている▼民主党の代表選も相似たりだ。こちらも人気低迷の野田首相をお払い箱にしたい人々が、あれこれと動く。新たな「顔」も取り沙汰されるが、それよりしっかり政府の仕事を、と叱る国民は多かろう▼野田さんの肩を持つ義理はないけれど、伊勢のお祓い箱さながらに、毎年首相を使い捨てる政治は情けない。また1年で代わるなら日本はいよいよ軽くなる。それに増税の最高責任者が、次の選挙で信を問うべきだと思う▼解散風が吹きだすと、前も書いた「再選されることばかり考えていると、再選に値するのが難しくなる」の箴言(しんげん)が思い浮かぶ。筋を通す人、損得に堕する人――。政治家と政治屋の違いがあぶり出される。
by momotaro-sakura | 2012-09-05 09:15