「病的近視」の原因が眼球の変形や異常にあることを3D MRI画像解析により解明


2012年10月11日



東京医科歯科大学
大日本印刷株式会社
http://www.dnp.co.jp/news/10056246_2482.html

東京医科歯科大学と大日本印刷は共同で日本人に多い「病的近視」の原因が眼球の変形や異常にあることを3D MRI画像解析により解明

眼球がいびつに変形することで網膜や視神経に異常が生じることを世界で初めて実証
印刷技術を用いた組織再生技術の共同研究成果を応用し眼球の変形を抑制する治療法の開発に着手


東京医科歯科大学と大日本印刷株式会社(以下、DNP)は、2005年4月1日にスタートした「ナノメディスン(DNP)講座」から派生し、国際科学雑誌などに掲載されて世界的に評価をいただいた、3D MRI画像解析による病的近視の原因究明・早期発見法、病的近視の治療につながる技術を開発しました。

病的近視とは、何らかの原因で眼軸(眼の前後の長さ)が伸び、ピントが合わないという光学的な問題だけではなく、眼球自体がいびつに変形することで、網膜や視神経などの視覚にとって重要な組織が、伸展(伸びたり・ゆがんだり)するために、網膜出血、網膜変性、網膜剥離、緑内障、視神経障害などを生じ、メガネやコンタクトレンズをつけても視力が出なくなってしまう病態です。

文科省学校保健統計によりますと、日本ではここ30年間に裸眼視力0.3未満の小児(ほとんどは近視と考えられます)が3倍以上に増加していることが報告されています。また福岡県久山町での医学調査「久山町スタディー」をもとに試算した結果、病的近視の人口は、40歳以上でおよそ5%と推定されます。加齢とともに近視から病的近視へと進行するリスクがあるため、今後も病的近視の患者数は増加傾向にあり、現在でも失明原因の第5位になっています。

東京医科歯科大学眼科学分野大野京子准教授らが行った、3D MRI画像解析を用いた病的近視に関する研究は、今年5月に国際科学雑誌 The Lancet、Ophthalmology、Investigative Ophthalmology & Visual Science誌にも掲載され、今月10月25日から国立京都国際会館で開催される「第66回日本臨床眼科学会」、11月10日より米国・シカゴで開催される「米国眼科学会議(AAO2012)」でも発表される予定です。

また東京医科歯科大学研究担当理事森田育男副学長らは、印刷技術を用いた再生医療技術を開発中で、皮膚や骨、歯周組織の再生において、動物を用いた実験ですでに成功を収めています。その研究成果を応用し、病的近視の治療法として、眼球変形部位にコラーゲン合成細胞を転写して、眼球の歪みや変形を抑制する治療法を開発中です。森田副学長らの研究成果は、循環器系のトップジャーナルであるArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology や組織工学のトップジャーナルであるTissue Engineeringなどに報告されました。

今回発表した2つの研究成果は、このような近視人口の増加にともなう失明リスクを未然に防ぐための診断法や治療法の開発につながる有意義なものだと考えられます。

ポイント
1.世界で初めて、3D MRIを用いて生体内での眼球の形状を三次元的に可視化することに成功しました。これによってより詳しく眼球の形状の変形が解明でき、眼球の変形が主な発症原因である「病的近視」や「緑内障」「網膜剥離」などの新しい治療法の開発につながると期待されます。
2.今回開発した3D MRIを用いて三次元的にさまざまな角度から眼球を観察できる眼球形状診断システムによって、アジア諸国における主要な失明原因である「病的近視」の原因が、眼球形状の変形による網膜や視神経の機械的障害であることを突き止めました。さらに病的近視を引き起こす眼球形状の変形にはいくつかのパターンがあることも発見しました。
3.眼球形状の変形を3D MRIによって正確に把握し、早期に是正することによって、合併病変の発生前に病的近視自体を治療する全く新しい治療法開発への応用が期待できます。
4.さらに「病的近視」では、眼球の血管が減少していることが判明し、眼球に酸素や栄養を補給するライフラインである毛細血管の減少と、血管層の菲薄化によって、眼球の形状異状を引き起こしている可能性があることがわかりました。
5.上記のような血管の減少が引き起こす虚血性疾患とよばれる病態は、眼だけに限らず全身に生じ、さまざまな病気の原因と関係することから、血管再生医療の開発が盛んに行われていますが、今回の共同研究で、印刷技術を応用した血管再生技術によって、血管が失われた部分に細胞シートを移植する動物実験に成功しました。
6.印刷技術(Printing Technology)と情報技術(Information Technology)の融合により、新たな分野への貢献を目指すDNPと医療系総合大学である東京医科歯科大学との共同研究の成果として、印刷技術を応用した新たな再生医療、情報技術を活用した病的近視患者の眼球形状の治療的解析が可能になりました。
7.世界で初めて光リソグラフィー技術を用いて、ヒトの血液からパターン化された血管を体外で作成し、転写技術を用いて、体内に移植することにより、病態、および運動機能が改善することを、動物の虚血モデルで示しました。
8.この転写技術の応用で、骨欠損モデルにおける迅速な骨再生、歯周病モデルにおける歯周組織の迅速な再生も可能となり、新たな再生医療法としての期待が膨らんでいます。

研究成果の概要

私たちのグループは、3D MRIという手法によってMRIで撮影された眼球を3次元的に解析しました。その結果、近視のない正常な眼は、眼球がほぼ球形であり、すべての方向で対称性が保たれているのに対し、病的近視の眼は、前後方向に長いだけでなく、中枢神経系に属する網膜や視神経を擁する眼球後部が複雑な形に変形していることを発見しました(資料1)。

さらに、眼球の変形を分析すると、日本人の病的近視の眼球変形パターンには4つのタイプがあることが判明しました(資料2)。さらに4つの中でも、特に眼球の耳側半分が突出している耳側偏位型の眼球の病的近視患者さんに、視神経障害がより多く発症していることがわかりました(資料3・4)。このことからも、病的近視に関しては、ある特定の眼球変形のパターンが失明とリンクすることを見出しました。これらは東京医科歯科大学とDNPの共同研究によって開発された非侵襲眼球計測システム(資料5)を用いて分析されました。またこの共同研究では、すでに印刷技術を用いた再生医療技術を開発しており、皮膚や骨、歯周組織の再生において、動物を用いた実験ですでに成功を収めています。現在はその研究成果を応用し、病的近視の治療法として、眼球変形部位にコラーゲン合成細胞を転写して、眼球の歪みや変形を抑制する治療法を開発中です。


研究成果の意義

病的近視の本質的な原因は、眼球形状、特に網膜や視神経を擁する眼球後部の変形に関係していること、そして眼球形状の変形により、網膜や視神経が機械的に障礙されることが、病的近視の視覚障害の原因であることを世界で初めて突き止めました。この発見により、視覚障害を生じるリスクが高い眼球形状を持つ患者さんを未然に見出すことができるとともに、眼球形状を是正する治療の発展により、病的近視の本質を眼底病変発生前に治療することができるというまったく画期的な新規治療法への発展が大いに期待できます。さらに印刷技術を応用した再生医療技術を、病的近視の治療に活用することへの可能性が高まっています。

by momotaro-sakura | 2012-10-14 10:55 | 健康管理/先端医療