インフラ、世界へ挑戦状

インフラ、世界へ挑戦状
32万人一丸、ITを駆使

2012/10/25付 日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD170NN_Y2A011C1TJ1000/

 事業構造の改革を進めてきた日立製作所が、再び世界に挑む。主戦場は欧米強豪がひしめく海外のインフラ市場だ。今後20年の需要は5000兆円との試算もあるが、受注へのハードルは高い。柱と期待してきた原子力事業も視界不良だ。社長に就任して3年目の中西体制の真価が問われる。





サウジアラビアでの展示会には200人を超えるサウジアラムコ関係者が詰めかけた

トップ50に照準


 サウジアラビア東部の新興都市、アルコバール。7日、高級ホテルの宴会場に国営石油会社、サウジアラムコの経営幹部200人超が詰めかけた。会場には石油関連のプラントや医療機器、スマートシティ構想まで、日立グループが手がける製品や技術が展示され、商談が進んだ。

 アラムコには独シーメンス、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が食い込んでいる。挑戦状ともいえる展示会を仕掛けたのは「社会イノベーション・プロジェクト本部」。4月に発足した社長直属の戦略部門だ。

 日立が持つ製品・サービスを組み合わせて顧客が抱える問題の解決策を提案し、ビジネスを広げるのが同本部の使命だ。

 日立は昨年、アラムコとの間で、石油などの掘削などに使う圧縮機の優先契約を結んだ。計画の初期段階から仕様を提案できるため、受注につなげやすくなる。同様の契約を結んでいるのはGEやシーメンスなど欧米の3社。日本企業では日立が初めてだ。

 タタグループ、BHPビリトン、リオ・ティント――。同本部が今春作成した「顧客リスト」には、アラムコのほか、開拓の余地が大きい新興国の財閥や資源大手約150社が名を連ねる。このうち50社をまず重点的に攻める方針だ。

 インフラ部門担当専務の斉藤裕(57)は「これからのインフラに欠かせないIT(情報技術)と制御技術を大手で深く理解しているのが強み。優位性はある」と自信を見せる。
 英国では7月に高速鉄道向けの車両596両を受注した。同国に車両工場を新設する方針で、事業規模は5500億円を見込む。8月には運行管理システムの受注に向け、試行品を英鉄道管理会社に納入することも決まった。シーメンスや仏アルストムなど鉄道3強の牙城に風穴を開けた。

 だが世界の壁は厚い。日立がインフラ事業を主軸に据えて3年。2011年度の関連売上高は約2兆円だがGEはその1.5倍、シーメンスは3倍だ

 収益力の差も大きい。日立は12年3月期に純利益が3471億円で過去最高となった。ハードディスク駆動装置や中小型液晶パネルなど、不採算事業の売却や統合を進めた成果だ。それでも売上高純利益率でみれば3.6%。GE(9.6%)やシーメンス(12.4%)に遠く及ばない。

 インフラ商談では韓国や中国勢が「日立より3割程度安い価格で入札することもざら」(同社幹部)。技術力だけでは戦えない。コスト削減の切り札が4月に始まった「スマート・トランスフォーメーション・プロジェクト」。社内で「スマトラ」と呼ばれる改革だ。


縦割り打破


 「これは血判状だ」。7月末、スマトラを実行に移す強化本部の任命式。社長の中西宏明(66)は辞令を手に、居並ぶ幹部に覚悟を迫った。

 人件費や資材の購入費など日立の年間総コストは約9兆円。スマトラではこれを15年度に5%削減する目標を掲げる。ざっと4000億円強だ。担当専務の江幡誠(65)は「日立100年の企業文化を抜本から見直す取り組み」と位置付ける。

 最たるものが縦割り組織の打破だ。日立は創業以来、事業部門に独立経営を求め、株式公開を薦めてきた。国内では各分野で大手の一角を占めるが、世界へ出れば後発の挑戦者にすぎない。スマトラでは部門の壁を超えた効率化を促す。強化本部は生産体制や調達部門の集約、事務部門の共通化などの具体策を策定中。来年度からの中期計画に盛り込む方針だ。

 「日立は1つのチーム」。中西は年頭、社員にこんなメッセージを送った。グループ900社、32万人の従業員が一丸となって世界市場を切り開く体制がつくれるか。日立の成長はそこにかかっている


(敬称略)



身の丈経営の副作用 
大型M&Aへ意識改革

日本経済新聞2012/10/26付


http://www.nikkei.com/article/DGKDZO47695370W2A021C1TJ1000/


 9月末、セコムは東京電力からデータセンター子会社、アット東京(東京・港)の5割の株式を333億円で取得すると発表した。運営するデータセンターの総床面積は20万平方メートルと国内最大級。最後まで競り合ったのが日立製作所だった。



日立はHDD子会社を売却した(タイ工場)


 日立の情報・通信システム事業は2011年度の売上高が1兆7642億円。部門別の構成比では18%と最も高い。データセンター事業は注力分野で、最新設備と金融機関など優良顧客を持つアット東京はぜひ取りたい案件だったが「僅差で敗れた」(関係者)。

 「海外で売上高3000億円規模のM&A(合併・買収)を目指す」。10年6月の投資家向け広報(IR)イベントで当時、情報・通信システム事業の担当専務だった中島純三(63)は、15年度の売上高を2兆3000億円に増やす事業計画を明らかにしたうえで、こう宣言していた。

 11年は情報システムなどの開発を手がける米シエラ・アトランティック社(推定買収額150億円程度)や、大量のデータ保存技術に強みを持つ米ブルーアーク(同430億円程度)を買収した。だが、大型案件はなかなか決まらない。


「教訓」が重荷に


 投資基準の厳格化が足かせになっているとの見方がある。03年に米IBMから約20億ドルで買収したハードディスク駆動装置(HDD)事業はその後、5年連続で営業赤字だった。「事業部門は後のことを考えずに買収を提案する。お金は本社任せという体制だった」。財務担当副社長の中村豊明(60)は振り返る。

 09年のカンパニー制導入を機に投資の仕組みを抜本的に見直した。カンパニー単位で貸借対照表やキャッシュフロー計算書を整備。カンパニーの財務内容で「社内格付け」を決めている。11年度の営業利益が約1000億円の情報・通信システム社の場合、社内格付けで認められる投資の上限は500億円程度とみられる。その是非も経営会議や取締役会で厳しいチェックを受ける。

 中長期的に必要な技術については中央研究所との情報交換を通じ、(1)自前で開発する(2)提携先との協業にする(3)買収する――などに分けて投資戦略を立てる。こうした「身の丈経営」を徹底した結果、カンパニーごとの採算は改善。10、11年度と日立の連結営業利益は2年連続で4000億円台となった

 業績が回復してM&Aを積極化するようトップが旗を振ってもなかなかついてこない。中村は「身の丈経営が染みついて、リスクをとることを怖がっているのではないか」と懸念する。


カンパニー再編


 今年の4月1日付で約40のカンパニーを5つに集約したのは、1つのグループの規模を大きくすることでM&Aを促す狙いもあった。

 日立の12年3月末の有利子負債は約2兆4000億円。パナソニックの1.5倍だ。それでも会長の川村隆(72)は「国内外を問わず多数のM&A案件を検討している」と打ち明ける。

 「大きな案件は直接持ってこい」。社長の中西宏明(66)も前向きだ。中西は11年3月、リストラで黒字転換したHDD事業を米ウエスタン・デジタルに売却することを決断した。譲渡額は48億ドル(約3840億円)。12年3月期決算では1910億円の売却益を計上した。非中核と位置づけた事業の撤退は進んだ。成長投資をいつ決断するのか。中西の次の一手を市場も見守っている
(敬称略)

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M&A(エムアンドエー、エムエー)は、企業の合併や買収の総称。英語の mergers and acquisitions(合併と買収)の略。他の企業を取得しようとする際には買収者やその子会社などに吸収合併させるほか、買収先企業の株式を買収して子会社化する手段が用いられることから、およそ企業の取得という効果に着目して合併と買収を総称するものである。

M&Aは新規事業や市場への参入、企業グループの再編、事業統合、経営が不振な企業の救済などを目的として実施される。広義には包括的な業務提携やOEM提携なども含まれる。

日本法上の概念としては合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式公開買付などの法的要素が核となるがこれらの各要素は対象企業のコントロールを得る手段として捉えられ、M&Aという場合には利用する手段のデザインを含めた企業戦略を把握する概念として用いられることが多い。

by momotaro-sakura | 2012-10-26 12:52