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ナノメートルサイズの液滴により腫瘍組織を壊死させる


超音波の熱でがん治療、日立、気泡目印に集中照射。(2010/10/11)
 日立製作所は体内のがんを超音波の熱で効果的に壊死(えし)させ、治療する技術を開発した。超音波診断の造影剤として使う小さな気泡をがん組織だけに送り込むよう工夫し、気泡を目印に超音波でがんを狙い撃ちする。正常な組織を傷めずに済み、従来に比べて副作用を軽減できる。

 新技術はまず特殊なガスを数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルの液滴に変えて注射する。液滴はがん細胞に養分を与える新生血管にのみ入り込み、がん組織に集積する。そこに超音波を当てて数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの気泡を作る。

 この気泡を目印に、治療用の強いエネルギーの超音波をがん組織に集中的に当てる。狙った場所は温度が50~60度程度に上がり組織が壊死する。ネズミを使った実験で、がん組織のみが破壊され周囲の正常な・・・ (新聞本文はまだ続きます)


(記事は本文の一部を掲載しています。)
[日本経済新聞 朝刊]



2010年10月12日



ナノメートルサイズの液滴により
従来比約10分の1の超音波エネルギーで
腫瘍組織を壊死させる技術を開発

超音波照射で液滴から生成するマイクロバブルの存続時間を制御

株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)は、このたび、腫瘍組織の超音波診断向けの造影剤*1として研究を進めている数百nm(ナノメートル)サイズの液滴(以下、ナノ液滴*2)を用いて、従来に比べ約10分の1の超音波エネルギーで腫瘍組織を壊死(えし)させる技術を開発しました。

日立は、腫瘍組織の内部に到達するまではnmサイズの液滴で、到達後に超音波を照射すると、µm(マイクロメートル)サイズの気泡(マイクロバブル*3)に変化し、腫瘍を精細に画像化するナノ液滴法を2006年に開発しています。
今回、日立は、通常1,000分の1秒程度の短時間で消失してしまうナノ液滴から生成したマイクロバブルの存続時間を制御することに成功しました。これにより、腫瘍組織の内部にマイクロバブルを行き渡らせたことを確認してから、超音波を照射して腫瘍組織を壊死させることが可能になりました。マイクロバブルによって超音波の加熱効果が高まることから、従来の超音波だけの照射に比べ、約10分の1の超音波エネルギーで腫瘍組織を壊死させることができます。本技術は、ナノ液滴を造影剤に用いて腫瘍を精細に観察しながら、従来に比べ、より小さな超音波エネルギーで選択的に腫瘍を壊死させるものであり、診断から治療まで超音波を用いて一貫して行える医療技術の実現に道を開く基礎成果です。
本研究の一部は医療福祉機器研究開発制度の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により行なわれました。

現在、超音波診断では、マイクロバブルと呼ばれる微小な気泡からなる造影剤が広く使われています。マイクロバブルは体内の血管を循環して腫瘍の血管を造影することができますが、サイズが大きく、血管外には漏出しないため、腫瘍組織の内部に到達することは困難でした。そこで、日立と国立大学法人東京大学の研究チームは、2006年に、数百nmサイズの液滴を用いて、液滴が腫瘍組織の内部に到達してから超音波を照射し、マイクロバブルを生成するナノ液滴法を開発しました。同技術により、腫瘍組織そのものを画像化することが可能になりました。

一方、近年、超音波を集束して腫瘍組織に照射し、そのエネルギーによって腫瘍組織を加熱凝固し壊死させる方法が実用化されています。日立は、ナノ液滴法を用いて生成された腫瘍組織の内部に局在するマイクロバブルによって超音波の加熱効果が高まり、超音波照射のみの場合に比べて約10分の1のエネルギーで腫瘍を選択的に加熱凝固させることができ、同時にマイクロバブルと超音波の相互作用による組織破砕が起こることで、腫瘍を壊死させられることを確認しました。

しかし、腫瘍組織の内部に局在するマイクロバブルは、通常1,000分の1秒程度の短時間で消失してしまうため、腫瘍組織全体にダメージを与えるためには、マイクロバブルの生成と、壊死させるための超音波照射を繰り返し行なう必要があり、結果として治療時間が長くなってしまうという問題がありました。

このような背景から、日立は、ナノ液滴法により生成したマイクロバブルの存続時間を制御する技術を開発しました。本技術は、腫瘍組織の内部にあるマイクロバブルに対して弱い超音波を照射すると、10秒以上にわたって存続できることを新たに発見したことで実現しています。生体の模擬体による実験では、照射する超音波の条件を最適化することで、マイクロバブルを広範囲に存続させることを確認しました。ナノ液滴を静脈投与したマウスを用いた実験でも、マイクロバブルを存続させられることが確認できました。
将来、本技術が超音波治療に適用されれば、治療時間の大幅な短縮と患者の負担軽減に貢献することが期待されます。

なお、本研究成果は10月12日から米国サンディエゴで開催される超音波に関する国際学会(IEEE International Ultrasonics Symposium)にて発表予定です。

用語
*1造影剤 : 臓器などの映像を撮影する際に用いる薬品。 *2ナノ液滴 : リン脂質の膜の中にフルオロカーボンを過熱状態で封入したナノサイズの液滴。過熱状態とは、過冷却の逆の現象で、相変化が起こるはずの温度以上に達しても、もとの相を保つ状態であり、ナノ液滴は沸点を超えた温度で液体が液体のままである状態。物理刺激として超音波が照射されると、液体から気体への相転移が起こりマイクロバブルになる。腫瘍組織の周りの血管壁は、正常な組織の周りの血管壁に比べ、構造がまばらであり、サイズの大きい物質を透過する性質がある。今回開発したナノ液滴は、正常組織を通らず腫瘍組織を到達する大きさで作られているため、腫瘍組織に対する選択性を持っている。 *3マイクロバブル : 空気やフッ化炭素などの気体を界面活性剤で安定化した、数マイクロメートルの気泡。生体とは音に対する特性が違うために超音波診断においては造影剤として用いられるとともに、近年の研究から超音波治療の増感剤としても有用であると報告されている。
日立ニュースリリースより
by momotaro-sakura | 2010-10-13 14:02