2012年 09月 13日
米国最大の借金相手、中国にあらず(NY特急便)
日経新聞米州総局・西村博之
公開日時2012/9/13 7:59
米国の最大の借金相手は? 少し前なら日本、今は中国との声が多そうだが、いずれも違う。
中国がもつ米国債は直近で1兆1640億ドル。確かに日本を500億ドル近くしのぐ最大の債権国だが、これを単独で抜いた機関がある。米連邦準備理事会(FRB)だ。
米連邦債務は先月ついに16兆ドルに乗せたが、うちFRBの保有分は1割超の約1兆6600億ドル。2010年夏まで8000億ドル前後だったが、後の量的緩和策(QE2)などで倍増した。
「米国は自分に借金しているようなもの」。08年まで米会計検査院の長官だったデビッド・ウオーカー氏は今週ニューヨーク市内でそう語った。無党派の提言機関「カムバック・アメリカ・イニシアチブ」を創設し財政再建の重要性を説く。
財政再建を訴える論者はFRBの金融緩和を批判することが多い。
当局の過度な介入を嫌う傾向ゆえでもあるが、緩和策が米国債の消化を助け、結果として財政の規律を弱めている、との不満も強いようだ。
債務拡大をよそに長期金利が歴史的に低いままなのは、米国債を大口で買うFRBの存在が確かに大きい。財政政策と金融政策の“ゆるみ”は表裏一体というわけだ。
12日に始まった米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBは量的緩和第3弾(QE3)の是非をめぐり、突っ込んだ議論をしているもようだ。
市場では「QE3の可能性は99%」(シティグループ)など緩和観測が高まる一方。従来と違いあらかじめ規模や期限を決めず、経済がある条件をクリアするまで緩和策を続ける新方式になる、との予想が多い。
問題は、その条件だ。「失業率が○%に下がるまで月○億ドルの米国債を買う」などの案もささやかれるが、特定の指標に依存するのは危うい。8月の失業率低下が、実は就職をあきらめる人々の増加が主因だったのは記憶に新しい。
他方、条件を曖昧にしすぎると「FRBが際限なく米国債を買うはめになるのでは」との不安をかき立てる。これはインフレを警戒するFRBの委員だけでなく、財政規律を求める論者にとっても悪夢のシナリオだ。
日銀もかつてゼロ金利解除の条件である「デフレ懸念の払拭」の解釈をめぐって揺れ、批判を浴びた。FRBも頭を悩ませているはずだ。
(ニューヨーク=西村博之)